使い走りに味をしめたジェイドに、再びルークとアッシュはアイテム回収を言いつけられていた。 流石に文句の多いアッシュを何とか宥めすかしてどうにか目当てのものを回収し終わった後、とりあえず一度休憩しておこうということで、ルークたちは魔法陣の上に腰を降ろしていた。 まずなによりも喉の渇きを潤そうと、道具入れに入れてある水入れを取り出し、ミュウ専用の容器に注いだ後、残りを喉を鳴らして体内に取り込む。そうしてようやく落ち着いたとばかりに一息つき、隣のアッシュを眺めやる。剣の汚れを落としている姿には疲れた様子はなく、さすがアッシュ、と感心した。 その後とりあえずの自分の状態を確認してTPが半分以下なことに気付き、オレンジグミを探すがどこにも見当たらない。もしかして先ほど使ったやつが最後の一つだったのだろうかと青くなって袋を漁りだすが、目当てのものはなかった。一度来た事があると少々なめてかかったので所持品は少なく、TP回復アイテムはオレンジグミしか持ってきていない。 「あのさ、アッシュ。ちょっといいかな」 「……なんだ」 「怒らないで聞いてくれると嬉しいんだけど」 「無理だな」 きっぱりと告げられ、やっぱりそうだよな、とルークは先を言うのを躊躇った。しかし今言わずに戦闘を重ね、TPがゼロになってから言うのとではおそらくまだ今の方がましに違いない。そう自分を勇気づけて、ルークは躊躇いがちにアッシュに告げた。 「その、なんか俺、オレンジグミ切らしちゃったみたいで……。だから、えーと、その、アッシュのグミもらえないかなーと……」 ちらりと俯いた顔を上げてみると、とてもとても呆れたようなアッシュの顔があった。 「道具補給なんて初歩のことも出来ないやつはそのままのたれ死ね」 言われるだろうとは思っていたが、実際に言われるときつかった。精神にダメージを受けつつ、それでも、と食い下がる。 「ひとつ、ほんのひとつだけでいいから! 大事に食べるから!」 「知るか。大体、後先考えずに技を使いすぎるからこんな馬鹿らしいことになると自覚してんのかお前は」 「……仰る通りです」 同じようなことを日ごろ仲間達から言われていたルークは、気まずそうに視線を逸らして俯いた。いくら回復してもきりがない、と、装備品を買ったりして資金不足な時は特にネチネチ言われたものである。グミだって数があれば安くない。 しかし結局のところでルークのその傾向は変わらず、その場その場でかわしかわし来たツケが今になってきてしまった。 「自分のケツは自分で拭え」 そう言って剣の手入れに戻ってしまったアッシュにしゅんと項垂れながらルークは甘かった自分を後悔し、そして反省した。 見るからにしょげたルークを心配したミュウが傍に来て、主人に負けないくらいの落ち込み顔でルークを見上げる。 「ご主人様〜……」 「ん、大丈夫だって。俺が悪いんだし」 「みゅ〜……」 どんよりと落ち込む一人と一匹の空気は、ここが洞窟内ということもあってキノコでも生えそうな勢いだった。 その空気を纏わせたまましばらく沈黙が降り、どこか遠くでぽたりと水が落ちる音のみの世界になる。 その沈黙を苦しく思うことなく、ルークはただただ情けなさでいっぱいになっていたのだが、急に落とされた怒声にびくりと肩を揺らした。 「ああ鬱陶しい! 落ち込むなら俺の前から消えて一人で落ち込んでろ!」 ひどいことを言われているとは思ったが、それもアッシュの勢いに呑まれてただ目を剥くばかりのルークに、彼は己の所持品をごそごそと漁った後、雰囲気同様速度までも勢いづけてルークに投げ寄越した。 危うかったがなんとか咄嗟にそれを受け取り、中を覗いたルークの目が輝く。 渡されたのは、件のオレンジグミ三つだった。 「アッシュ……」 「……今回だけだからな。次やったら本当に知らん」 「――うん!」 ありがとアッシュ、と手の中のグミを大事に持ち、キノコの空気を払拭して一変、ルークの周りに花が散る。 それを見たアッシュは、彼が仲間から決定的な注意を受けることなくだらだら甘やかされてきた理由が、わかりたくなくともわかってしまったような気がして脱力した。 そんなことに気がつかないルークは、先ほど同様、主人と同じような雰囲気で笑顔を振り撒くミュウを侍らせて、早速グミを一口齧る。 「あー、なんか普段食べてるグミより一千倍おいしい気がする」 本来一口で口に入るグミを、ちびりちびりと勿体無さそうに食べているルークの顔は本当に嬉しそうで、まあいいか、と思ってしまったアッシュの負けだった。 |