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「―――っ」


急に目に走った痛みに、サーフの歩みが止まった。


「どうした」
「いや、目に砂が入っただけだ」


大事はないと傍のゲイルに首を振り、走る痛みを拭う様に幾度も擦る。
しかし目の異物感は一向に取れる気配はなく、忌々しい感覚に思わず舌打ちが出そうになる。なんて厄介な世界なんだろう。
こちらの世界に来てからというもの、地下はともかくあのギラつく太陽の光りを浴びる地上の砂埃には辟易させられている。
風が吹けば砂が舞い、視界を覆い尽くす。時折今のように目に入りこむことも珍しくなく、外套がなければ全身は砂まみれになることだろう。口に入り込んだものならば違和感だけ、もしくは吐き出せば済むのだが、目はそう簡単にはいかない。
入り込んだ異物を排除しようと滲む涙をもってしても砂は取れず、サーフを苛立たせる。無理矢理にでも除いてやろうと直接眼球に触れようとしたところで、その肩を掴まれた。


「見せてみろ」


声に従い、サーフは体の力を抜いて顔をゲイルの身長に合わせて上げる。


「診るからには必ずなんとかしろよ」
「ならばまず口を塞げ。間近で騒がれればできるものも出来なくなる」


言葉を重ねようかと思ったが、とりあえずは目下の厄介事を片付けるのが先だった。
素直に口を閉じ、ゲイルの処置を待つ。
瞼を開くのは少しばかり苦痛だったが、違和感のほうが厄介であるし、なにより己を診るゲイルを見たかった。
頬に冷たい手を添えられ、すぐにゲイルの顔が近づいてくると幾分サーフの機嫌も持ち直す。
目の痛みはゲイルに任せ、サーフは輪郭が取れないゲイルとの距離を楽しみ出すことにした。











「……彼らはいつもああなのか?」


そんな二人の姿に、遠くから一部始終を見ていたロアルドはうめくように漏らした。
問い掛けられたアルジラは不思議そうに首を傾げる。

「ああって?」
「いや、その……何と言えばいいのか、少々くっつき過ぎじゃないだろうか。大体砂ぐらい人の手を借りるようなものでもないだろう」


確かにすぐに取れなければ痛むし欝陶しいだろうが、人を遣う程の大袈裟なものではない。
多少目が赤くなろうが強引に擦れば自然と出るものだ。取れにくくとも繰り返せばいずれは気にならなくなる。女ならそういうことには過敏になり、慎重にもなるだろうが、外見はどうであれサーフは男だ。


「そんなにおかしいことかしら?」


しかし戸惑いを感じるのはどうやら自分だけのようだった。
アルジラが促す先ではシエロも不思議そうな顔で彼女に同意している。


「あんなんしょっちゅうだよ二人とも。兄貴はリーダーだし、ゲイルはその部下だし――って俺らもだけど」
「……つまり、彼はリーダーという立場故に、多くの人間に献身されるのが常だったということか?」


それならばいくらか納得がいくかもしれないと頷きかけたのだが、ピンクと青の頭は横に振られた。


「んー、確かに兄貴は組織のトップだったけど、でもおいそれと兄貴に近づく奴なんていなかったしなぁ。つか俺らでもあそこまでは無理だし」
「まあゲイルだけよね。ウチのリーダーは何が楽しいのか鉄面皮参謀がお気に入りだから」
「多くの人間に献身され慣れてるって言うより、ゲイルに献身され慣れてるって言う方がしっくりくるな、アレは」
「仏頂面の堅物も、サーフにかかっては形無しよねえ。我侭に振り回されてる様子は、まるで玩具」


けらけらと笑う二人に、ロアルドは額を片手で覆って溜め息をついた。
世はそれは玩具ではなく寵愛と呼ぶのではなかろうか。いくら気に入りの仲間だとしても、同性であの距離は己ならばありえない。

それとも元デジタル世界の人間はこちらとは感覚がズレているのだろうか。

見れば今にも彼らの顔が重なりそうで、ひとつも己は関係ないというのにロアルドの頬に熱が上ってくるのがわかった。
これが彼らにとっては普通でも、己にとっては普通ではない。しかしこのパーティーでいる限り、慣れねばならないのだろう、あの関係を。
二人を見ていると湧く、妙に落ち着かない気持ちから開放されるよう救いを求めて天を仰いだが、そこには相変わらずの忌ま忌ましい黄色い太陽があるだけでロアルドは大きく顔を顰めた。









初ロアルド。ヒートいないので突っ込み不在だからきっと彼は苦労人。
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