逢瀬の際のほんの穏やかな時間を、ルークはアッシュと大きな木の下で過ごしていた。
アッシュは持ってきた、なにやら資料のようなものを読み、ルークは剣の手入れをしたりと、会話は多くなかったが心地よい時間だった。
満足するほどに光る剣の先を認め、大きな溜め息をつきながらふと何気なく手を下ろすと指先がアッシュの手の上に重なってしまう。慌てて手をどかしたがアッシュの表情は変わらず、手もそのままでこちらを向くこともなかった。
邪魔をするなと言われていただけにルークの不安も大きかったのだが、どうやらアッシュの機嫌は大丈夫なようだ。
そして再び剣の手入れを再開したのだが、割と好きな行為にもかかわらずルークの心臓はどきどきとうるさく、どうにも集中できなかった。
先ほど触れた手の感触が頭から離れず、妙にそわそわしてしまう。
グローブ越しだったが、アッシュと手を重ねた事実が気恥ずかしく、そして嬉しかった。
指先だけだったことが酷く悔やまれ、そしてルークの心に欲が生まれる。

もう一回ぐらい重ねてもいいかな。

アッシュが資料に目を向けていることを横目で確認し、ルークは少しずつ彼との距離を縮めた。
そして一見剣に集中しているように見せかけつつ、ゆっくりと左手をアッシュの方へ伸ばす。
おそるおそる近づいた手は、そう離れてもいないのにたっぷりと時間をかけて目的の場所にたどり着いた。グローブの生地を感じた瞬間につい反射的に手を引っ込めそうになったが、何とか耐えてそのまま手をアッシュのそれに重ねる。

今度は偶然ではなく、また一瞬の出来事でもなかったが、アッシュは微かに動いたものの、いたって静かにあぐらの上にある紙に目を落としていた。
手痛く振り払われる覚悟はしていたので、ルークはこのアッシュの反応に少しだけ目を瞠る。
それをいいことに、重ねていただけの手を、下にあるアッシュの指を握るように指を丸めてみるた。怒られる、怒られる、と心臓はばくばくだったが、それをしてもアッシュは振り払わなかった。
資料に夢中で気付いていないのか、それとも気付いていても好きにさせてくれるのか。
試しに今度こそは怒鳴られる覚悟でアッシュの指をきゅ、と握ってみたが、現状は変わらない。むしろ絡めた指をやわく握り返され、ルークの頬が一瞬にして赤く染まった。

これはいい意味で取ってもいいんだよな……?

もしかしたら無意識なのかもしれないが、無意識でも何でもルークにとっては嬉しい事には変わらなかった。
浮かぶ笑みを抑えることもせず、握り返された手を少しだけ力を込めて握り返す。
紙を捲るのに片腕だけでは不便だろうに、それでも利き腕にもかかわらずアッシュはルークと繋がったままだった。ここまで来るとルークにもアッシュがちゃんとした意思を持って手を握ってくれていることに気が付き、思わず見た横顔に何とも言えない気持ちが広がる。
そうしてしばらく感情のない横顔を見ていると、新たな衝動がゆっくりと頭をもたげてきた。
しかしハードルは高い。
こればかりは怒られるだろうとずいぶん悩んだが、勇気をくれたのは指先から伝わるあたたかさだった。
決意したルークは、更にじりじりと近づいて腕一本分ぐらいの距離まで詰めると、なるべくアッシュに触れないように首を伸ばす。
むに、とアッシュの頬に触れた唇は、その感触に改めて自分がしている行為の気恥ずかしさを思い知らされてくれ、自分でやっておきながらルークは真っ赤になった。
流石に照れ死にそうで、たまらずアッシュと距離をあけ、繋がっている箇所をも外そうと手を浮かせる。
だがその手が離れる瞬間に腕を引かれ、立ち上がろうとしていた体が引っ張られてルークは無様にも転がった。痛さよりも、資料ではなくこちらをに目を向けているアッシュに気を取られ、動けなくなってしまう。

お前は邪魔するなと、ただそれだけのことも聞けないのか。

言葉とは裏腹の少し愉しげな声音と表情に、頬に更に血が上る。
アッシュがこちらを向いたのは嬉しかったが、同時に地面に埋まってしまいたいほど気恥ずかしかった。
転がったままの自分に、ゆっくりとアッシュが覆い被さってくるとたまらず目を瞑ってしまう。こちらの状態に気付いているアッシュにじわじわと言葉でいたぶられるのだろうと口元を引き締めると、微かな間をおいてそこに柔らかな感触が落とされた。

どうせやるならこれぐらいやれ。

思わず目をあけた先の間近すぎるアッシュの顔。施された行為。
ルークの顔は秋の紅葉に負けないぐらい、今日一番の赤さを記録した。













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