ライドウ ss






ライドウは食事を作るとき、エプロンをつけている。

いつものように食事の用意をするライドウの後姿を見て、鳴海はにやついた笑みを浮かべていた。
ライドウがつけているものは普通のエプロンよりも生地が多い。肩の部分や裾の部分にびらびらと形容するような布がついている。
やたらひらひらしたそれは鳴海がおもしろがって買い与えたものだ。色々と堅いライドウの無表情を壊してやろうと、起こる怒りを想定して過剰とも言えるそれを選んだのだが、ライドウは拒否を見せるどころか、素直に礼を言ってそれを受け取った。

そこで気付いた。おそらくライドウはこれがどういうものかわかっていない。

確かに割烹着しか見慣れていない彼に「洋風の割烹着みたいなもの」と言って差し出したのだが、どうやらそれを鵜呑みにしてしまったらしい。間違ってはいないのだが、男が付ける様な物ではないという大事な注釈が抜けている。
そしてパーラーなどで女給が着物の上にそれと同じようなものを纏っているのを見ていたライドウは、特に疑問に思わなかったようだ。洋服を見慣れていない彼はびらびらした特徴ある作りも、洋風ならそんなものであると思っているのだろう。日ごろ何か大人びた風のライドウではあるが、こういうところはやはりまだまだである。
想像と違う反応を見せるライドウに、しかし鳴海は罪悪感を感じることもなく本当のことは告げなかった。大事に使ってくれよ、と笑顔で手渡し、以後ライドウはそれをつけて食事を作っている。

外套もホルスターもつけない制服の上からそれをつけている男子の姿は滑稽だが、普段の彼とのギャップを思うとなかなかどうして似合っている気がした。
ライドウが動くたびにゆらゆらと揺れる紐を眺めれば、どうしても顔は緩んでしまう。勇ましい彼が身につける少女趣味のようなエプロン。外見とは別のところで「可愛いなあ」と苦笑交じりの笑みがこぼれてしまう。
視線を感じて振り向くと、鳴海の足元にいる黒猫がじい、とこちらを見つめていた。おそらくゴウトはライドウが身に付けているものがどういうものかはわかっているのだろう。しかしそれをライドウに告げる意思はないようで、自分にも呆れたような視線を投げかけては来るもの、引っかかれたりなどは今のところしていない。


「はいはい、やに下がってますよーすいませんねえ」


だって可愛いじゃないかお前、とゴウトと共に視線をライドウへ戻す。忙しなく動いて家事をする姿だけでも和むというのに、この格好だ。あのライドウが。これが笑わずにいられるだろうか。
鳴海にはゴウトの声は聞こえないので、にゃあ、と鳴く声の意味はわからないが、どんなことを言われても可愛いものは可愛い。
早くライドウが気付いて怒る顔も見たいと思うが、この情景も捨て難いなと、鳴海はくだらない葛藤に浸っていた。









鳴海さんは本当に駄目な大人ですな。
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