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きっとそうするだろうという確信はどこかにあった。
その脳裏にエンジェルを焼き付けている彼は、時が来れば彼女の業を一身で引き受けるのだろうということを。
それはエンジェルにまつわる一人の男性の情報を持つゲイルにしか出来ないことであり、なによりゲイル自身も彼女を救いたいと感じていることをサーフはわかっていた。




先に行け、とエンジェルと対峙してのゲイルの言葉に、ああ来たか、とそれだけを思った。取り乱すのではないか、とこの時の己を想像しては思っていたが、不思議と気はひどく落ち着いていた。
視線をゲイルに向ければ、やさしい色合いの瞳が返される。いつ何時もサーフを掻き立てた色だ。
重なったのはほんの刹那。だが二人にはそれだけでよかった。
すぐにサーフは何も言わないまま、セラを促してハンガーへと足を進める。シエロとセラの気遣わし気な視線を感じたが、自分が成すことはここではなくこの先にある。もうここにはない。
ゲイルに背を向けるその瞬間の一踏みだけはやはり重く、だがその躊躇いも、踏み出してしまえば止むことなく足は進む。
言いたいことなんてない。いつだって自分たちはその思いを口にしてきたはずだ。話しておけばよかった、なんて後悔するような事柄はない。言葉などなくとも、短い時間だがゲイルと精一杯生きてきたその事実と、先程交わした視線だけで十分だった。
愛を問うたり告げたりすることは一番の愚行で、そんなことをしなくともこの身は今も彼の想いに包まれているし、また、彼もそう感じてくれているだろう。それが自分たちだった。
それでも、そうとわかっていても抑え切れない切なさに唇を噛み締めそうになるのは己が弱いからか。セラの不安そうな表情を見て不自然に見えないように堪える。こんな時だからこそ、ゲイルのことだからこそ、自分が一番しっかりと気を持ちたかった。もう泣ける場所はない己は、この先何があろうとも自分で立ち直らねばならないのだから。これを越えねば自分に未来はない。不安なのは誰もがそうだろうが、それに気を取られてこの先をしくじるなんてことはあってはあけない。自分にはもうないが、せめてセラとシエロの心の支えでありたかった。


ゲイルとエンジェルの気配が遠くなるにつれ、代わりに思いが溢れて止まなくなった。
記憶に浸るなど無意味だと思っていたが、それは意識しなくても次から次へと鮮やかに蘇る。胸が熱く、痛い。
ゲイル、と。心の中でその名を呼び続けた。何か伝えたいわけでも、振り向かせたいわけでもなく、ただ名前だけを呼んだ。

ふと、エンジェルと対峙する直前の彼の言葉が回る。

―――お前と会えたことを誇りに思う

彼自身が一番大切にしていた「誇り」という言葉を自分に向けられたことがサーフを満たした。喜びとも嬉しさとも、そんなものでは表現できないくらいの感情が身のうちに湧いた。それを今告げられているその意味を考えれば余計に気が高ぶった。


ああ、俺もだよゲイル。
…ずっと、ありがとう。また、会おうな。


ふと鈴の音が聞こえた気がして、サーフは静かに瞳を閉じた。









2クリア後に書いてた、珍しくちょっとまじめな文。まあ速攻会えるんですけどね。
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