ラビッシュ ss






その日、イフレー村の夜は冷え込んだ。


寒さで目が覚めた。
気持ちのよい睡眠であったにもかかわらず、この冷たい空気に覚醒してしまったテリュースはやれやれと吐息した。昨夜は眠りに入る前から冷えていたので、毛布等、それなりに準備はしていたのにこれである。
何か一枚羽織るかと暗い室内に目をやると、自然にもう一つのベッドが目に入った。
上掛けに包まった中身は自分のように寒さを感じてはいないのか、一定のリズムで布団を持ち上げている。
しばらくその様子を見ていた後、テリュースは冷えた床に足を下ろし、ベッドの上の塊に近づく。
間近で塊の主である弟を覗くと、やはり多少は寒さを感じているらしく、体を縮めて丸まるようにして眠っていた。
どこか幼いように見えるその姿に頬を緩めながら、顔を覆うようにしてある上掛けの端を持ち上げ、微かな外気と共に身を滑り込ませる。
そして背を向けているアルフレッドを優しく引き寄せ、暖を取るように体を密着させた。


(あたたかい……)


微かな時間でも冷えた空気にあたった体に、眠っている人間の体温は心地よかった。肩に顔をうずめ、再びまどろむのを待つ。
しかし思った以上に強く抱きしめてしまったのか、それとも冷たさを感じたのか、腕の中のぬくもりが身じろぎをした。
軽く唸り、身を反転させて寝返りを打つ。その拍子に腕がテリュースに触れ、違和感を感じたのかアルフレッドの目が薄く開いた。
起こしたか、と苦笑しながら乱れた髪を撫で付けると、アルフレッドはゆっくりと破顔した。


「にいちゃ……」


同時に体に腕を回され、ぎゅ、としがみついてきた。驚いて微かに瞠目するが、すぐにアルフレッドの自分への呼称で昔と今とがないまぜになっているのだろうと判断できた。

十年近く前になるだろうか、昔はよくこうして二人で眠ったものである。
両親はなにかと行方不明になりがちであったし、アルフレッドは幼かった。普段は強がりやませた口を利いたりする弟は、しかし夜になると年相応の子供らしさを見せていた。
テリュースの服の裾を離すものかと握りしめ、心細気に見上げてくる姿は愛らしく、抱き上げて望み通り一つの布団に包まってやればそれはもう嬉しそうに微笑んだものである。先程の笑みのように。

昔したように背を軽く叩いてやると、頭を擦り付けるようにして更に体を寄せてくる。昔となんら変わらない仕種にテリュースの心は和み、ならば最後まで、と過去の行為に倣った。


「おやすみアル、いい夢を」


さらりと金糸をかき上げ、昼は布に覆われている額に唇を落とす。そのまま互いを抱き合って眠りに入り、再び部屋は静寂に戻っていく。
外はとうとう降り出した雪がちらついていたが、もう寒さは感じなかった。









小話。冬になるとどうしようもなく甘いもの書きたくなるのが私の病気です。
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