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教会に召集されてからそれまで以上に慌ただしくなった状況に、休む間もなく活動することが多くなった。
セラを守り、かつ他のトライブを侵略というのは思った以上に大変で、まだその状況に慣れない今は皆が苦しい時期を過ごしていた。
だがここで挫けてしまっては今までの努力の甲斐もなくなり、それだけは避けたいサーフは常に頭を働かせてエンブリオンに指示を出す。今はつらいだろうがきっとそのうちこの慌ただしさが普通になるのだ。慣れてさえしまえばどうということはないだろう。
だから仲間が勧めようとも、必要最低限の睡眠しか取っていなかった。




だがやはり限度というものがある。
必要最低限と思っていた睡眠時間だったが、休もうとしていた矢先に問題が生じたりなど、予定外のことでほぼ無眠になると、流石に上手く思考が回らなくなってくる。
そうなるといかに自分を律しようとしていても頭がぼんやりとし、軽い貧血のようなものを感じることさえあった。このままではまともな指示が出せなくなると踏んだサーフは、今攻め込まれたら元も子もない、と不本意ながらも睡眠を取ることにした。
仲間達といえば、日頃からそんなサーフを心配に思っていたらしく、苦い顔で睡眠を取ると言ったサーフを非難することはなく、むしろようやくその気になったかと喜んだぐらいだった。
ほんの数刻で切り上げるというサーフを、どうせ休むのならとことん休め、と叱るように部屋に追いやり、挙句、短時間で出てきたら気絶させてでも送り返すとまで脅してきた。
その時の皆の様子を思い出すと胸の中心の辺りがあたたかくなり、自然と漏れる笑みを浮かべて隣を見やった。


「俺は必要とされていると思っていいよな」
「当然だ。お前がいなくて誰がエンブリオンを動かす」


何を馬鹿なことを、と緑の瞳に冷めたように射られたが、それがまた満更でもなくサーフは口角を上げる。
戦力という以外の理由で自分を必要としてくれている言葉だと分かるのは、やはり気持ちの良いものであった。


「……で、ゲイル。お前はいつまでここにいるつもりだ」


「早く寝ろ」と目で告げてくる視線に、仕方ないな、と素直にベッドの上に横になりながらサーフは問うた。
確かに今は状況が安定してはいるが、気は抜けないはずだ。指示を出す側の人間が二人も抜けていては何かあったときの対処が遅れる可能性がある。


「素直に寝ようとしない誰かの見張りをしろと命令が下っている」


だがゲイルは首を振り、ここへの滞在を暗に告げる。その表情からは「不本意だ」というのがこれでもかというぐらいに現れていた。やはり戦況が気になるのだろう。


「寝る奴に見張りなんて、誰だそんな暇な命令を出したのは」
「アルジラにシエロにセラ、そしてヒート。全員だな。状況が悪くなってきたら遠慮なく呼びに来ると言っていたが……」
「お目付け役を仰せつかったお前は不本意、というわけだ」


どことなくその様子が頭に浮かんで更に苦笑が強くなった。いくらゲイルでもタイプの違う複数に詰め寄られては逃れることが出来なかったのだろう。
そしてそこに仲間達の隠れた意志をつかみ取り、サーフは上掛けを掴んで起き上がる。
そのまま長椅子に腰掛けているゲイルのもとへ歩み寄り、彼を端に押しやってその足の上にどさりと頭を乗せた。


「……何をしている」
「見ての通り休息だが?」
「わざわざベッドから下りてこうする意味がわからん」


どけ、と言外に示すゲイルを無視してサーフはそのまま上掛けを羽織り、睡眠の体勢に入る。少し枕が固いような気もするが、野宿の時よりはだいぶましであるし、なにより心が安らいだ。


「サーフ」
「うるさい。睡眠の見張りに来たのならその邪魔をするな。お前は黙って俺がより深く眠れるように髪でもすいていろ」
「……無意味な」
「ならおとなしくじっとしてろ。俺は寝る」
「おいサーフ」
「………」


無視を決め込むと、頭上で呆れたようなため息が聞こえた。その通り、間違いなくゲイルは呆れているのだろう。
だがこれでいい。
仲間達がわざわざ不要な見張りにゲイルを付けたのは、確かに自分を見張るという理由もあるのだろう。だがもうひとつ。
ゲイルもサーフに次いで疲労が大きいのだ。
睡眠は人並みより少し足りないぐらいに取ってはいるものの、参謀という立場から彼もまた常に頭を働かせている。一つの指示が命取りになることもあるのでいろんな場合を想定し、如何なる事態が起きても迅速に対処できるようにといつも考えている。おそらく本人が思っている以上に疲労は溜まっているに違いない。
いつか休ませないとな、と思っていたが仲間達もそう考えていたらしい。自分にはゲイルの見張りを、そしてゲイルには自分の見張りを、というわけだ。
しかし寝ろと言ってもきっとゲイルは聞かないだろう。見張りとしてここにきた以上、それ以外のことをするつもりはないに決まっている。なんせゲイルの堅物さは自分以上のものがあるのだ。
ならば自分と同じようにせめて心が安らげるようにすればいい。こうしていて穏やかな気持ちにならないとは言わせない。


「……なんて奴だ」


しばらくの後、そう小さく呟いて前髪をゆっくりと掻き上げられる感触に満足し、サーフは穏やかな気持ちで意識を深めた。









膝枕が書きたかったんです。
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