ふとクレヴァニールが顔を向けると、クリストファーとアルフォンスが談笑しているのが目に入った。 「本当に仲のよいご兄弟ですね」 穏やかな使い魔の言葉に、クレヴァニールも微かに笑って頷いた。 共に優れた能力を持つ兄弟、それも双子ならば、どちらがより上なのかと優劣をつけようとするが故に不仲にもなりかねないのだが、クリストファーもアルフォンスのどちらもそんな感情を互いに持ち合わせていない。相手を思いやり、大切にしている姿は見ていて微笑ましい。 「肉親、か……」 呟きには淋しさが交じっていた。 クレヴァニールに血を通わせた親兄弟はいない。だが育ての親である団長、その娘で姉のようなレジーナ、そして傭兵の仲間達がいてくれたので孤独を感じることはなかった。彼らがいなくなるまでは。 団長とレジーナはヴェスターの力で消え、残った仲間たちも今はばらばらになってしまっている。 そして偶然か必然か出会ったブリュンティール。いるはずがないと思っていた血縁、血を分けた兄だと気付いたときには、彼を失ってしまった。 大切な人ばかりを失う。そんなクレヴァニールを知るからこそ、使い魔の顔は曇った。 「マスター……」 主のこういう表情を見るたびに何とかしたいと思うのだが、どう声をかけていいのかわからない。 彼の助けでありたいのに、何も出来ない自分が悔しくて臍をかむ。 そんな使い魔の様子に気付いたクレヴァニールは、苦笑して首を振った。 「確かに俺は家族を亡くしてばかりだけれど、でも、皆がいてくれるから前に進める。それに、今ではもうお前が家族みたいなものだからな」 やわらかく微笑むクレヴァニールに、その言葉に、使い魔は一瞬目を見開き、そして嬉しさに顔をほころばせる。 家族。作られた生命体である使い魔もまた血のつながりとは縁遠い存在だった。 「クリストファーやアルフォンスみたいに血の繋がりはないけど、彼らみたいな家族になれることは証明できる」 それでも、クレヴァニールが言うように血や、種族が違っても強い絆はもてるのだ。 ■■■ 「お、見ろよアルフォンス。いいもの拝めるぞ」 「クレヴァニール……と、彼の使い魔? ああ、でも確かにいいものだね。彼が笑ってる」 クレヴァニールと使い魔のやりとりを見ていたクリストファーがアルフォンスに話し掛け、二人でクレヴァニールの、見ている側まで和むような笑みに頬を弛ませる。 「……なんだかあいつのああいう顔見てると、適わないって思うよな」 「悔しいけれどね。クレヴァニールのなかの自分がまだまだ小さい存在だということを実感させられるよ」 「本当にな」 互いに肩を竦めて、苦笑をもらす。 目の前の相手をライバルだと認めているのだが、クレヴァニールの傍の小さな少女の位置から見るとなんて自分たちのは小さいのだろう。 「でもまあ今だけだな。そのうち俺を見て、あれ以上の顔をするようになるさ」 「言いますね兄さん。でも、こっちだって引きませんから。いくら兄さんでもこれは譲れませんよ」 「望むところだ」 「こちらこそ」 軽口を叩きながら、しかし思いは真剣に二人は向き合い、そして自然とクレヴァニールに視線が移る。 穏やかに笑う姿はあまり見られるものではない。彼と会う状況が大抵は切迫しているのでそんな余裕がないのかもしれないが、そういうときこそ心の支えになりたかった。それまでの生い立ちを覆って癒せるような繋がりで。 同じことを思っているだろう兄弟を見て、同時に笑い合う。 家族がいないというのなら作ればいい。彼がいつも微笑むことができるように。そして出来るならば傍に自分を。 束の間の休憩に、それぞれが決意した。 こういう話思いつく度にアルフの死が痛くてならないです。 |