普段は厚みのあるスーツに覆われている首筋に、うなじにかかる髪を除けながら唇を触れさせる。 触れた瞬間に腕の中の主は動きを止め、襟足の部分に舌を這わせれば微かだが張る胸。 殊更肩に力を入れる箇所を執拗にねぶれば、己の背に添えられていた手に力が込められるのがわかった。 ほんの直前まで軽口ばかり叩いていた唇は、開けば漏れる声をせき止めるため、きつく噛み締められていることだろう。 いつまでつまらない意地を張る気なのか、と胸の内で笑い、尚もしつこくゲイルは白い首を弄んだ。 サーフは快楽に弱い。 触れればすぐに快楽を捉らえ、生じる熱に思考があやふやになることを、しかし彼は隠そうとする。 どれほど快感に蝕まれていてもそれを表に出そうとはせず、普段の彼のように高慢で、こんなときでさえ余裕なのだという態度を見せ付けようと心を偽る。皮肉気に笑うその表情の奥で本当はゲイルの起こす行動ひとつひとつにびくついているというのに、高い自尊心がそれを見せない。 唇を合わせる行為は好きらしく、よくせがみ、また仕掛けてもくるのだが、それ以上になると途端に必死さと焦りが見え出す様子は正直見物である。普段はこちらを挑発して誘いをかけてくるくせに実態はこれだ。 少し顔を上げて表情を見遣ると、サーフはそれを機敏に察知して気丈な顔を作り出した。 いっそいじらしいとも言える虚勢を目の当たりにし、ゲイルも表情は変えないまま気を高ぶらせる。 彼が何も言えないことをいいことに、首に回されている腕を外して少々強引にサーフの体を反転させる。 腕を頭上で一まとめにすると己の手で拘束し、背後から再び首筋に触れて今度は少々強く歯を立ててやると 今まで以上に予想のつかなくなった行為と、かすかに走っただろう痛みにサーフの喉が反った。 ろくに見えもせずに動きを封じられ、今彼はどんな気分でいるのだろう。 それを思うと思わず口元に笑みさえ浮かんでくる。背を向けているため表情は見られないが、だからこそさぞゲイルを煽る顔をしているに違いない。今は目にすることが叶わないそれだが、そのうちに虚勢など張れなくしてやるとサーフを弄びながらゲイルは笑った。必死で意地を張るサーフを見て沸いてくるのは、彼に対する愛しさと、それと同等かもしかするとそれ以上の加虐心だ。 その精一杯の虚勢を張れなくなるほどの感覚を与え、強がる表情全てを壊してやりたいと愛しさが募る裏で思う。 強い眼差しが己の施す行為で微かに怯えの色を見せる時、どれほど自分を満足させているかを恐らくサーフは知らない。 その口が哀願を請う時、一体どれほどの充実が得られるというのだろう。 おそらくサーフはこの後もそれを口にすることはないはずだ。だが自分とて欲と意地がある。 今回も粘るのだろうか、それとも耐え切れずに陥落するのか。 数刻後を想像し、ゲイルは愉悦の笑みを深めた。 大丈夫、うちのボスはM。 |