ラビッシュ ss






特にすることもなくて村外れの林沿いの道をぶらぶらと歩いていたアルフレッドだが、遠くに見える姿に足を止めると、次には勢い良く走り出した。


「アニキ!」
「おー、お出迎えかアル。嬉しいことをしてくれるじゃないか」
「ばっ、どう見ても偶然だろ!」


よしよしと頭を撫でようとする手を撥ね除け、それより、とテリュースが今ここにいる説明を求めた。


「退治、したのか?」
「ああ、今回もそんなに強いものじゃなくてな」


テリュースは出来のいい勇者らしく、よく国からの命令であちらこちらの警護や、他の街の勇者では手に負えないモンスターの退治などで村を空けることが度々ある。
今回も遠くの街近辺でモンスターが暴れているとの報告を受けて、国の要請に応えるべくテリュースが旅立って行ったのが一週間前。
戻るのはいつになるか分からないとのことだったが、街への距離を考えても一週間で村に戻って来ているのはかなり早いと言えた。


「そんなに弱かったのか? そのモンスターさんは」


街に着いてすぐに用事を済まさないと今ここにはいられないだろう、とアルフレッドは思いついたことを口にしてみる。
そして案の定テリュースはにこりと笑い、アルフレッドの言葉を肯定した。


「街に着いたすぐに問題児は見つかったからな。探す手間が省けてこっちは大助かりだった。で、ちょちょいのちょいですぱーんとね」


機嫌よさそうに語るテリュースの武勇伝を頭で思い描いてみて、アルフレッドは溜め息をついた。
こうも簡単に話してはいるが、おそらく退治したモンスターはそれなりの力を持っていたと思われる。そうでなければその街の勇者が退治して話は終わっているはずだ。
こんな田舎の村のテリュースに話が来るということはテリュースでなければいけないということで、つまりそれほどモンスターは厄介だったということだ。
だがこの兄はそれを知ってか知らずか、全然大したことなかったと笑っている。


(そういや前戦ったとき、めちゃくちゃ強かったもんな……)


こちらが四人なのに対し、テリュースはたった一人でアルフレッドたちを苦しめたのだ。なんとか勝利できたはいいものの、一対一の勝負だったら、と思うと今でも恐ろしい。
しかしながら、どこの街にも負けないほどの勇者なはずなのに一向に村が活気づかないのはなぜなんだろう、とアルフレッドは村長である叔父を哀れんだ。


「アル、アル」


少しばかり思考を飛ばしていたアルフレッドだったが、呼ぶ声に顔を上げるといつの間にか林に入り込んでいたテリュースが手をこまねいていた。


「? なんだよ……ってか、村に戻って報告しなくてもいいのか?」
「いいからいいら」


とりあえず村に戻ったことを村長に告げるのが第一事項だろうと至極真っ当なことを言ったつもりなのだが、何がそんなに楽しいのだというような笑みで一蹴され、やれやれとアルフレッドは言われた通りにしてやる。
木々が繁る林の中へ入り込むと、テリュースは更に奥に進んでアルフレッドを促した。
そうして視界に移るのは木だけ、というところまで来ると、テリュースはやおらアルフレッドを抱きしめた。


「アルフレッド、元気にしてたかー?」
「ちょちょちょ、おいこらっ」
「食事、きちんと取ってたか? 俺がいなくても一人で眠れたか?」
「アホかっ」


いきなりの抱擁に加え、頭に頬擦りされながら幼児に向けるものとしか思えないことを言われ、アルフレッドはテリュースの腕の中でジタバタと暴れる。


「こらアニキっ! いくら村外れっていってもこんなところでこんな体制でいるのを見られたら言い訳なんか通用しないだろ!」


恥ずかしさも交じって「離せ」ともがくのだがテリュースはびくともしない。
流石はターレス自慢の勇者、とかなりどうでもいいことをアルフレッドは遠くで思った。


「大体な、いつも言ってるけど俺はもう子供じゃないんだぞ? なんだよその言葉」
「子供じゃなくたってアルはずっと俺の弟じゃないか」
「いやまあそれはそうなんだけどさあ……」


何か違う、とアルフレッドは首を傾げるが、テリュースと話していて論点がずれるのはいつものことである。
はぁ、と大きな溜め息をついて抵抗するのは諦めた。


「まったく……村に戻ればちやほやされるだろうに」


任務帰りのテリュースを、村長であるターレスはそれはもう上機嫌で迎える。彼の誇る自慢の勇者の凱旋帰宅なのだからそれは頷けるのだが、それに加えてありがたくないことに街の娘もどこか興奮気味で出迎えるのだ。
黙っていてもなんだかんだと世話を焼かれて悪い気分にはならないだろうに、とアルフレッドは言う。
けれど彼は屈託ない顔でこう言うのだ。


「それもいいけど、俺はアルとこうしているのが一番だから」
「!」


音付きで目許に口付けられ、アルフレッドの顔が一気に朱に染まる。
いつでもテリュースの言葉は直球だが、一週間ぶりということもあってひどく照れくさい。
だがそれに喜んでる自分がいることも確かで、アルフレッドは恥ずかしくて言えない言葉の代わりにテリュースの背中を抱き返す。
それに相手が微笑んだのを空気で感じ取り、胸がしなる。アルフレッドとてこの一週間、兄の不在が寂しくなかったわけではないのだ。
以前ならまだしも、こういう関係になってから初めての遠征はアルフレッドに寂寥感を覚えさせていた。 周りが騒がしくてもどこか物足りなかった。


「まあ、とりあえず……おかえり」


小さい呟きだったがテリュースは聞き漏らさなかったようで、一度強くアルフレッドを抱いてからゆっくりと言葉を紡ぐ。




「ただいま、アルフレッド」









兄ちゃんはアルを溺愛まくりだと嬉しい。アルも育った環境考えるとお兄ちゃん子にならざるを(妄想のため切り上げ)

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