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夜が明けようとする時間の逢瀬は、少し肌寒い。 夜明け独特の静寂とそれに見合ったかのような冷たい空気に、クレヴァニールは少しだけ首を竦めた。 「もしかして、寒い?」 目ざとく気付いたアルフォンスの声に、咄嗟にクレヴァニールは首を横に振る。 素直にそうだと言えばいいものをどうして否定をしてしまうのか自分でもよくわからないが、アルフォンスと話しているとこういうことが多々あった。嘘をついてもごまかせやしないとわかっているのにやってしまうのは、クレヴァニールの治せない癖だった。 「本当に?」 「ああ」 「その割りには肩が強ばってる気がするけどね」 「―――これは…」 案の定からかうように指摘され、クレヴァニールは口篭ってしまう。 気を悪くした様子もなくアルフォンスは微かな笑みを零し、クレヴァニールの全身を見やった。 「でも…そうだね。僕のこの格好だとそうでもないけど、君だと首と胸元が…」 アルフォンスのロイヤル・ガードの軍服に比べ、クレヴァニールの格好はこの気温には軽装だといえた。 大きく広げられている襟と胸元から入る風は確かに冷たく、クレヴァニールに反論は出来ない。 それでもクレヴァニールはこの時間なら外に出たかった。 風の入らない屋内で寒さなど気にせずに談笑するのもいいが、朝のこの張り詰めた空気を感じながら空の色の変化を見るのが好きなのだ。 なによりこの時間だと起きているものも少ない。しん、と静まり返った空気の中では、ふたりきり、という実感が強く感じられる。相手に言えないが、それが第一だった。団体行動をする己らの、ほんの少しの貴重な時間。 故に、アルフォンスに「心配ない」とクレヴァニールは告げる。 「寒いといってもこれくらい大したことじゃない。それにじき日が昇る」 正直な気持ちで告げても、それでもアルフォンスは渋るようだった。 「でも日が昇ったからといってすぐに暖かくなるものじゃない。…今更だけど何か持ってくればよかったと後悔しているよ。おかげで次からはこんな失敗しないんだろうけど、問題は今だ」 「………」 いくらなんでも過保護すぎる発言にクレヴァニールは苦笑した。 たかが少し肌寒いだけで、特に問題になるようなことではない。アルフォンスは自分をどのように見ているのかはわからないが、クレヴァニールとて傭兵期間はそれなりにある。過酷な状況を経験してきた身としてはこんな寒さなどかなりどうでもいい類に入ってしまうのだが、何を思ってかアルフォンスは違うようだ。 「うーん、だとすると……」 なにやら考え込んでいる風のアルフォンスに声をかけても、呼んだことにすら気付かない。 自分の身を思ってのことなので強くも言えず、途方に暮れようとしていたとき、そこでアルフォンスはようやくクレヴァニールに向き直った。 「ああ、その手があったか」 「何、を―――?」 笑顔のままこちらに歩み寄って首の布に手を掛けたかと思えば、クレヴァニールの周りでふと風が途切れた。 首に当る柔らかな感触に目を向ければ、己の首に回されているアルフォンスの手と山吹色の布。 「これなら大丈夫かな」 自分がつけていたように幾度か首にそれを巻き付け、クレヴァニールの肌が露出している部分を覆ってしまうとアルフォンスは満足気に頷いた。 「これ、は……」 風を遮断したそれは、つい先ほどまでアルフォンスの首に巻き付いていたものだ。証拠にアルフォンスの首元に見慣れているものはなく、普段はあまり見られることのないロイヤルガードの軍服の刺繍がはっきりと現れている。 アルフォンスがしてくれた行為を思いなぞれば、風を感じないどころかぬくもりさえ感じられ、胸が熱くなる。 しかしクレヴァニールはそこである問題に気付いた。これではアルフォンスが寒くなるのではないのか。 不安気な表情のクレヴァニールの思いを読んだのか、アルフォンスは笑って首を振った。 「僕なら大丈夫だよ。この服は、ほら、こうやって首の上の方まで覆ってくれてるから」 「だが」 「ああ、少し長いようだね……もう一回巻いておこうか」 「アルフォンス」 布の長さを調整してくれるアルフォンスを申し訳ない気持ちが抜けなくて見上げるのだが、彼は布を動かす手から目を離さないまま言い放つ。 「嫌、っていう理由以外なら聞き入れないよ」 「……そんなことはない」 「じゃあ命令する。それはここにいる限り君のものだ」 そう言われてしまえば、クレヴァニールに返す言葉はなかった。 少しの後、感謝の言葉を伝えて返る「どういたしまして」と微笑む顔に、口元が緩んだ。 顔を下げれば、いつもはアルフォンスの首にある色が視界に入る。普段彼が身につけているものを今自分が身につけていることが、少し照れくさい気もするが嬉しかった。 鼻をくすぐる心落ち着くかおりに顔を埋めて、ちいさな幸せを噛み締める。 今日の朝焼けは格別だった。 アルフさんの首に巻いてるやつって、どうみても戦闘では邪魔だと思うんですがどうでしょう。引っ張られたら終わり。 |