DDSAT ss






ゲイルの顔を思い浮かべると、まず眉間の皺が第一に浮かぶ。


「ゲイルって、なんでいつもあんなに怒ってるっぽいんだろう」


もっと笑ったりすれば親しみもわくのに、とシエロが零すと、あたりに妙な沈黙が下りた。


「ゲイルの笑った顔……ねぇ。ちょっと想像出来ないわ」
「ていうかアイツ笑ったことあんのか?」
「言っておいてなんだけど、俺もないと思う」


あんまりな仲間の言い分に、サーフは笑ってしまう。
確かにゲイルの笑った顔はめったに拝めないし、サーフが見たことのある笑みといっても口の端だけで微かに笑うような、そんな感じのものである。満面の笑み、というのはサーフとて一度も見たことがない。


「でもあの皺こそゲイルって感じがするだろ。あれがないと物足りないぐらいに」
「そうねぇ。そうなのよねぇ」
「それに俺、アイツの皺を深くするの、結構好きなんだ」


思い出したかのようにサーフがくすりと笑みを浮かべると、他の三人の視線がサーフに向く。


「えーっ、兄貴怖くねぇの!? 俺ゲイルがそうなる度におっそろしー思いしてんのに! ヒートだってプレッシャーに負けて目ぇそらすんだぜ!?」
「……クソガキ! 何勝手なことほざいてやがる!」
「だって俺前見たしー。なんなら状況細かく説明してやろうか?」
「上等じゃねぇか。言えよ。ただしふざけたこと言ったら燃やすぞそのウゼェ頭!」
「おー来いよ来いよ。その髪こそ電撃喰らわせてアフロにしてやらぁ!」


目の前で展開されていく喧騒だが、サーフは気にも留めない。誰にともなく言葉を続ける。


「皺が深くなるイコール不快、ということだからな。あいつの不快は主に未知との遭遇だ。自分の知らないことがあるのが許せない、というよりは気に入らないんだろう」
「あーわかるわかる。ゲイルすっげぇそれっぽい」


くだらない言い合いよりサーフの方が気になるのか、いつのまにかシエロはヒートをおいてサーフの話に戻っていた。
相槌を打つシエロに頷きを返し、そして愉しくてたまらないといった感じにサーフは言う。


「俺の発言や行動で皺が深く刻まれるのを見ると、ああ、今ゲイルの中ではぐるぐる渦巻いて考え込まれてるんだろうな、って無性に胸が疼く。そうさせてる原因が俺だからな。皺が刻まれている間は俺のことを考えてる何よりの証だと思うと…こう、たまらないね」


それまでの穏やかな空気が、その一言で固まった。
アルジラ、シエロ、ヒートの三人は言葉もなくサーフを見つめる。


「だから出来るだけそれを見たい、と思うのは普通だろう? 見ようによっては俺の行動は一途で可愛いものじゃないか」
「……サーフ、あなたって人は……」
「幸い俺はいじめっ子気質で、ゲイルを困らせるネタには事欠かないときている。他の事で刻まれるとこっちが不快だから先手を打っておかねばならないしな」
「……いじめっ子どころか暴君だろお前の場合」
「ああ、証云々はおいといて、ただ単純にあいつの嫌そうな表情がおもしろいってのもあるな」
「……兄貴ぃ」


三人が次々と顔を顰めていく中で、サーフだけが変わらない表情のまま淡々と語っているというのは異様な空間だった。
エンブリオンのリーダーがひねた性格なのは重々承知していることだったが、実際に本人の口からこういうことを聞くと人事なのに疲れが圧し掛かるのだと三人は経験した。思わずこの場にいないゲイルに同情の意を向けてしまう。
参謀としても、ゲイル個人としても、彼は色々と大変だ。


「来たか、ゲイル」


そして都合がいいのか悪いのか部屋に現れたゲイルにサーフが声をかけるのを見て、三人は更に複雑な気持ちになる。
皆わかっているのだ。 サーフの荒れは、ひいてはエンブリオンの荒れに繋がることを。
そうならないために、例え心の中ではゲイルに同情していても、彼らはエンブリオンの平和のためにリーダーお気に入りの参謀を人身御供にするしかないのだ。己の保身とリーダーのご機嫌を損ねないために。
聞かなければよかった、と嘆いても時間は元には戻らない。




そしてサーフは本日も悠々とゲイルを構い倒すのだ。










そのうち手痛く噛み付かれてしまえリーダー。