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仲間がみな自我が芽生えていく中で、ゲイルだけがまだその瞳の色を濁らせたままであった。
感情なく話される言葉は機械染みていて、かつての自分もこうだったのだろうな、とサーフは掟に縛られていたほんの少し前までを思う。こうして自我が芽生えた今ではその時のことは嫌悪でしかないのだが、だからといって目覚めていない者をどうこうは思うわけではない。

ふと、隣で今後の動きについて作戦を立てているゲイルを見る。
感情のない瞳の色は無機質な灰。
サーフや皆がそうなように、瞳に色を宿した後は誰もが変わる。個人差はあれど例外なく感情を手にし、そして掟に捉われずに各々の意志で行動を取っていく。
ゲイルのその灰に色が燈る時、彼はどう変わるのだろうか。


ある日の就寝後、サーフはゲイルの部屋を訪れた。


「何か起きたのか」
「いや、何も」


緊急を要するのか、とベッドから体を起こすゲイルに心配はないと告げ、サーフは訝しむゲイルの隣に腰を下ろす。
何もないのならこの訪問はなんなのだと問う視線を受け、サーフは薄暗い部屋の中同様の色の瞳を見据えた。
何も孕んでいない濁った色と視線がぶつかる。


「――お前の瞳の色は何色だろうか気になって、そうしたら直に目を見て考えたくなった」


返されたのは呆れたような返事だった。


「…そんなことのために今いるのか」
「そうだと言ったら?」
「感情など、ますますいらなくなる」


本気でそう言っているゲイルにサーフは苦笑を零す。
常に物事の最善を見ている彼には、確かに今の自分の行動はさぞ呆れるに値するものであろう。
けれども。


「まぁ賭けてもいいけど、そう思うのは今のうちだけだな」


恐らくそう遠くないうちにゲイルも覚醒するだろう。
何がきっかけかはわからないが、自分では自覚することなく突然にはじけるそれを、出来るものなら一番最初に見る人物になりたいとサーフは思う。
変化を遂げたゲイルが、掟に拘らなくなるだろうその後も己に付いてきてくれるのかという不安はあるが、サーフはゲイルを信じていた。
それはただの願望なのかもしれない。だが少なくとも不安からゲイルの覚醒が遅れることを願う気持ちは微塵もなかった。
むしろ早くその目に燈される色が見たくてならない。どんな色になったとしても、きっと彼はその瞳で自分を魅了するのだろう。
考えるだけで肌が粟立った。


「お前は覚醒した俺たちをあまり好ましく思ってないんだろうけど、結構いいものだと思うぞ、感情ってやつは」
「無駄が多くてもか? お前たち…特にヒートのセラに対する行動を見ていると、意味があるものとはとても思えない」
「ヒートは不器用なだけだ。俺だって抑えていなかったら多分ああなってる」
「セラに対してか?」
「それはお前が覚醒したら教えてやるよ」


ゲイルの問いに柔らかく微笑み、答えを返す。
そしてベッドに膝を立てて上体を伸ばすと、そっとゲイルの顔を手で支え、その瞼に唇を落とした。


「今のは何だ」
「ただの自己中心的なまじないさ」

早くお前の目に感情が燈るようにな。


そして来たとき同様唐突にサーフは去り、ゲイルに疑問だけが残される。
やはり不可解なことが多くて、感情というものは厄介なのだというゲイルの考えは変わらない。
それはヒートに対してよく思うことだったが、サーフは輪をかけてひどいようだ。
サーフがこの部屋を訪ねた理由の意味は未だわからないし、今までのやり取りで彼が何か成果を掴めたとも思えない。最後の行動がまた不明だ。

眉間に手をやろうとして、しかし指が触れたのはサーフが口付けた瞼だった。


「理解不能だ」


呟きながらも、悪い気分でないことをゲイルは自覚していた。





管理人の夢妄想度高すぎる一品でございます。

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