DDSAT ss






最近サーフは新しい遊びを覚えた。


「……ん、んん」


くぐもった声をもらし、サーフは口付けを与えてくるゲイルへとしがみつく。
もっと深くなるようにと頭を抱え、角度を調節して己の首も傾げる。触れ合った唇はあたたかく、舌にいたっては熱いほどだった。
その熱が己の口内でうごめき、くすぐったいように感じられる箇所をなぞれば背筋がぞくりと粟立ち、ゲイルにかかる手に力がこもる。
もっと、と欲するサーフをわかっているかのようにゲイルは唇を離さず、より密着するようにサーフの体を引き寄せた。


「………」


長い時間をかけて合わされていた唇は、離れれば熱のこもった吐息が漏れた。
唇は互いに濡れ赤く色づいている。
まだどことなく物足りなさそうなサーフの唇を舐めやってから、ゲイルは腕を離した。


「これで満足か」
「……とりあえずはな」


狭い通路の壁によりかかるゲイルに習い、サーフもその隣に身を寄せる。
微かに乱れた息を整えるように大きく息をつき、腕を組みながら視線を上に上げる。


「じゃあ聞くか。お前の要求はなんだ」


促されるままに口を開きかけたゲイルだったが、耳に届いた足音に気づいて注意をそちらに向けた。
間を開けずに二人組の構成員が現れ、アジトのリーダーとその右腕に軽く挨拶をして通り過ぎていく。


「惜しいな。あと少し時間がずれていたらあいつらはボスと参謀の情事を垣間見ることができたというのに」
「……救い難い思考だな」


焦るどころか楽しまんとするばかりのサーフに、ゲイルは眉間に手をやった。

今サーフたちがいる場所はアジトの通路だ。
出入りを制限するような場所でも、人気がないわけでもない。誰がいつ通ってもおかしくないエンブリオンの自由な通り道である。
最中に人が通りかからなかったことは運がよかっただけのことで、いつ見られてもおかしくない場所で二人は睦んでいた。


「お前の性癖はどうにかならんのか」
「悪いがならないな。だがお前とて少しも気が高ぶらないわけじゃないだろう?」
「さあな」


気のない返事をするゲイルに気を悪くすることもなく、サーフは「で?」と途切れた会話の続きを問う。どことなく空気がゆったりしているように感じられるのは直前の行為のせいだろう。
しかしゲイルは微かにこちらに顔を向けると、行為の名残もなくさらりと呟いた。


「今度のニュービー狩り、お前は一人ここに残れ」


どんなことを言われるのだろうと愉しんでいたサーフはその言葉に体を起こす。


「なんだそれは。俺一人を除け者にしてどうする」
「しかしお前が同行する理由がない。お前は俺達の誰よりもスキルは充実しているし、物理攻撃を筆頭に他も申し分ない」
「控えでもいいだろう」
「お前がいるとうるさい」


なんて理由だとサーフは詰め寄るが、その直前でゲイルが先手を打った。


「どんな言いつけでも受け入れる。そういう取引ではなかったか」


それを言われると、サーフとしては弱かった。
最近、サーフはあまりにもゲイルに小言を言いつけられるので軽い気持ちから「じゃあ俺の注文も聞いたらそれを受け入れてやる」と提案したことがあった。
本気ではない、半ば自棄のようなものだったが、どういうわけかしばらくの沈黙の後で「わかった」とゲイルがそれを受け入れた。少なからず驚いたサーフだったがそれを表には出さず、せっかくの事態なのだからと自分にとって最上の使い方をすることにした。

それが先ほどの行為だった。

サーフはゲイルから取引だと言われるたびに、まずは先払いとして自分から注文をつけていた。その大抵が艶めいたものであり、人気のある場所で、というのが最近の気に入りだ。もちろん見せつけるために場所を指定しているわけではないのだが、見つかるかもしれないというスリルと、構成員たちが普通に過ごしている中で自分たちが色ごとに耽っているという背徳めいたシチュエーションがサーフを煽っていた。
渋い顔をしていたゲイルも、事の後ではサーフが言いつけを守っていることから、今では持ちかけられればため息一つでそれを受けている。

しかしゲイルの言いつけはそのほとんどがサーフの予想の範疇にあったことであり、やれ我儘を言うなだのやれ行動を慎めだの、そういう類のものがほとんどだった。
今回のように、具体的に大きく行動を制限させられるものは初めてである。率直に言えばおもしろくない。
おかげで甘ったるい空気も一気に冷めてしまった。


「行動を制限するにも程度があるだろう。いくらなんでも割に合わない」


サーフはあまり退屈が好きではない。
ゲイルの言うままに一人で残るとなれば、彼らが帰還する間いろいろと時間を持て余すのだろう。もちろんやることはいくらでもあるのだが、除け者にされているのが気に食わない。正当な理由があるならまだしも、うるさいというだけで置いて行かれるのは立場的にも納得がいかなかった。
聞き入れてたまるかという思いでゲイルを睨め上げれば、意外な言葉が口から洩れた。


「では割に合わすか」


どうやって。何をもってして。そんな疑問はゲイルの含んだ口元を見れば解消された。
ひとつ瞬きをし、サーフはそれまでの不満も忘れて口角を上げる。
居残れと、おそらく一度言ったからにはゲイルは己の取引事項を変えることはしないだろう。絶対ではないが、覆すには労力がいる。そしてそれは面倒だった。
一人でアジトに残ることを思えば変わらず抵抗があったが、彼が仄めかした事柄を含めるとそう悪い取引ではない。


「……高くつくぞ」
「構わん。それでお前が大人しくしているのなら」


まっすぐにこちらを見下ろす緑の瞳に魅入られながら、サーフは高い代金を支払わせるために腕を伸ばす。

相変わらず傍は騒がしく、隣の通路を横切る構成員の足音がよく響いている。
それでも二人は躊躇することなく、再び唇を重ね合わせた。
忙しない空気のアジトの中では、鼻にかかる甘ったるい声も濡れた音も微かなものでしかない。その分周りの音は耳に入り易く、サーフはほんの少し向こうのことを思いながらゲイルの口技に背を反らしていた。
高い支払いと満足するまで。










見つかるのならよりによってヒートで。

アレなタイトルもどきは「ちゅー」からきてますが、地元の方言(擬音?)での「やけどするほどに熱い」という意味もあったりします。自己満ですいません。

>>戻る