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静まり返った新たなアジトの部屋。
降り止まない雨音だけが唯一の音にすら感じられるほどの空間で、サーフは言葉をこぼす。


「…もし早くからルーパと対面していたら、お前はハウンズの…彼の頭脳になっていただろうな」


それは雨音に掻き消えそうなほどの微かな呟きだったが、サーフからそう離れていない窓辺に佇んでいたゲイルはその音を漏らさなかった。
眉間に皺を寄せて振り向いた顔には彼の口癖が現れていて、それを見たサーフは皮肉気な笑みを作って言葉を重ねる。


「惹かれていなかったとは言わせないぞ。ルーパと会ってからお前は変わった」
「否定はしない」


溜めもせずにそう言い、ゲイルは己の指に填められた、自分のものではないタグリングに目をやった。
思い出されるのは毅然たる態度と気高い精神。悪魔化。そして託された遺志。
無意識だろう拳を作るゲイルに、サーフは組んでいた足を下ろして溜め息のように言葉を吐いた。


「遺志…か。ルーパの遺志はその子に継がれ、そしてお前は”ルーパ”という存在をその胸に宿すんだろうな」

いや、もう宿しているか。

呟いて、木製の古い椅子からぎしりと音を立てて立ち上がり、先程よりも深く眉間に皺を寄せるゲイルの顔をのぞき込む。


「なぜそんなことを聞く」


近づくサーフに一歩引き、不審気な態度で問うと気にしたふうでもなくサーフは窓辺に腰掛けた。


「お前が初めて興味を示した人物と自分を比べて、果たして俺はお前が仕えるほどの器なのかと思ってね。お前に影響を与えるようななにかを持っている自信はないし、別段誇り高くもない。ルーパと共通する箇所なんて俺にはない」
「………」
「つまりのところ拗ねてるんだよ。ゲイルを変えたのは俺じゃない」
「サーフ」
「俺が一番お前のことを知っているつもりだった。俺が、一番お前に深く入り込んでいると思っていた。それは驕りだったけどな。短時間でお前にここまで入り込んだルーパが羨ましく、妬ましい。――もっとも、故人に対してこんな感情を持つ俺をお前は見下すんだろうけどな」



不安定な場所で不安定な体制でいるサーフを椅子に座らせ、一見愉しそうに、それでいてどこか挑発するような瞳と視線を合わせる。


「…サーフ。物事を「もし」と仮想するのは愚かなことだ。既に起きてしまっている事項はどうあがいても覆せない」
「ごもっとも」
「だからお前より先にルーパに会っていたらという仮想など、するだけ無駄だ」
「ゲイルらしくて泣けてくるな」


おどけたようにゲイルの言葉を受け流すさサーフを無視し、ゲイルは椅子の背もたれに手を伸ばしてその身を囲む。
覆い被さるように身を屈めてくる彼に、サーフは目を細める。


「俺はお前に仕えていることに満足している。俺が仕えるのはお前だ、サーフ。ルーパと会った後でもそれは変わらなかったし、他の誰かにこの地位をやる気は更々ない」


薄く笑みを乗せての言葉に、サーフはその頬に両の手を添えて更に顔を近づけた。


「―――それでこそ俺の参謀だ」




重なる唇は笑みの形。





わかってて聞いたんだろうなリーダー。ウチのボスは嫉妬深いぞ参謀さん。

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