エビルプーリストを倒すまでが勝負だと思っていた。 悲劇を引き起こした相手には何がなんでも勝ち、その後にピサロに自分の想いを告げる。 この想いがどんな結末を迎えるのかは予想がついているが、それでも後悔しないようにやれることはとことんやろうというのがソフィアの心構えだった。 ただ卑怯ではありたくないと、ピサロに惹かれていることをロザリーに告げた。 自分はロザリーという存在を知りながらもピサロに心惹かれてしまったこと、そして出来れば彼の気を引きたいと思っていること。しかしそれはエビルプーリストを倒すまでのことで、打ち倒した後に想いを告げ、拒絶されればすっぱりと身を退くことを、淡々と目の前の美しい恋敵に話した。 彼女はソフィアの告白に瞠目してしばらく無言でこちらを見ていた。当然だろうな、とおそらく次に来るだろう糾弾の言葉を覚悟したが、どういうわけか彼女はにこりと微笑んだ。 「そうですか、ソフィアさんもピサロ様のことを……。すいません、皆さんは、とりわけあなたは彼のことを憎んでいるだろうと思っていたので驚いて」 その問いには苦笑するしかない。何度も自問自答し、思い悩んだ末の結論なのだ。彼が自分たちにしたことを忘れたわけではないが、それでも思いは募るばかりなのだ。 「うん、まあ、自分が一番びっくりしてる、かな」 「ピサロ様は魅力的ですものね」 それにどう返すべきかと苦笑で受けていると、彼女は静かにこう言った。 「私にはソフィアさんの行動を縛る権限などありません。ピサロ様の心変わりを思うと心苦しいものがありますが、もしそうなってもそれは私に至らないところがあるせいなんですから。だからソフィアさんは私に気兼ねすることなく思うように行動してください」 「……えーと。それだけ?」 「それだけ、とは?」 心底不思議そうに尋ねられ、ソフィアは言いにくそうに思っていたことを相手に話す。 「いや、あの例えば「泥棒猫!」とか「邪魔をするな!」とか。そう言われても当たり前なことを言ったわけだし……」 最愛の人を奪おうとしているのだから穏やかでいられないはずだ。 恋愛事はまったくの無知のソフィアでさえそれはわかることなのに、それでもロザリーは優しげな笑みを壊さないで、ソフィアを諭すように言葉を重ねる。 「……私も、本当は不安で仕方がないんですよ。でもここでピサロ様が離れていくのであれば、ソフィアさんが行動しなくてもいつかは離れるんだと思いますから」 「――強いんだね」 改めて心の強い人だと思い知らされ、敵は強しと溜め息を吐く。 今自分がロザリーの立場であったとき、果たしてこう在れるのだろうか。 「きっと嫌な思いさせてるんだと思うけど、ごめん。でも引けないの」 「ええ、それは私も同じです。だからソフィアさん、本当に私に気をつかったりとか、罪悪感を感じたりしないでくださいね。私も必死にピサロ様を繋ぎ止めようと躍起になりますし」 「うわ、ますます前途多難」 おどけたように紡がれる言葉に思わずソフィアも笑うと、す、と手を差し伸べられる。 「どう転んでも恨みあいはなしということで」 「――了解」 二人だけが知る、秘密の誓いだった。 |